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佐賀地方裁判所 昭和63年(ワ)260号 判決

原告

中田美穂

被告

佐賀県

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し金五〇〇万八九一〇円及びこれに対する昭和六一年六月二五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二争いのない事実

一  交通事故の発生

1  発生年月日時 昭和六一年六月二五日午後一時三二分頃

2  発生場所 佐賀県杵島郡江北町大字上小田一五一二ふじせストア前道路

3  加害車両 普通乗用自動車(車両番号佐五六さ三〇〇八)

4  加害車両の運転者 佐賀県白石警察署巡査嘉村和善(以下「嘉村」という。)

5  態様 加害車両と原告が衝突し加害車両の右前輪が原告の右足の背部上に乗つたまま停止し、原告が倒れたもの

二  負傷と治療経過

原告は本件交通事故により右足背部挫創、右足背肥厚性瘢痕、右上腕挫傷の負傷をし、次のとおり入通院した。

1  武岡病院

昭和六一年六月二五日から同月二七日まで入院(三日間)

昭和六一年六月二八日から同年九月六日まで通院(実治療日数五八日)

2  白石共立病院

昭和六一年六月二五日及び同年九月一日通院(実治療日数二日)

3  佐賀医科大学医学部附属病院(以下「医大病院」という。)

昭和六一年九月九日から通院(実治療日数二〇日)

平成元年一〇月二〇日から同年一一月九日まで入院(二一日間)

4  九州大学医学部附属病院(以下「九大病院」という。)

昭和六二年六月一七日通院

5  唐津赤十字病院

昭和六三年一月一四日及び同年一月二六日通院(実治療日数二日)

三  責任

被告は本件交通事故当時本件加害車両を自己のために運行の用に供していた。

四  損害の填補

原告は本件交通事故につき自賠責保険金二八三万二五一〇円の支払を受けた。

第三争点

一  原告の主張

原告は本件交通事故により次の損害を蒙つた。

1  治療費

(一) 医大病院分 金四七万四九〇五円

(二) 九大病院分 金二二五〇円(この点については争いがない)

(三) 唐津赤十字病院分 金六四四〇円

2  入院付添費(武岡病院及び医大病院) 金九万六〇〇〇円

4000円×24(日間)

3  通院付添費 金一六万二〇〇〇円

2000円×81(日間)

4  自宅での付添看護 金一四八万四〇〇〇円

原告は通院しない日も毎日午前九時と午後三時に薬を塗布する必要があり、そのために母かち子が付添つて看護した。

1000円×1484(日間、但し平成2年10月2日までの分)

5  入院雑費 金二万四〇〇〇円

1000円×24(日間)

6  通院交通費

(一) 武岡病院分 金四万七五六〇円

410円×2×58(日間)

(二) 医大病院分 金三万九六〇〇円

1980円×20(日間)

(三) 九大病院分 金八八〇〇円

7  医師等への謝礼(この点については争いがない。)

(一) 武岡病院分 金六〇〇〇円

(二) 医大病院分 金五〇〇〇円

8  診断書作成費 金三二八五円

9  慰謝料

(一) 入通院期間を基礎に算定する分 金一五〇万円

(二) 後遺障害に基づくもの 金五〇〇万円

10  弁護士費用 金四〇万円

二  被告の主張

1  免責

(一) 被告及び嘉村は本件加害車両の運行に関し注意を怠らなかつた。

(二) 本件交通事故当時、監護責任者である中田かち子(以下「かち子」という。)は当時二歳一一か月だつた原告の手を引くこともなく駐車車両の後方を通つて道路を横断しようとした。(この点については争いがない。)本件交通事故は右の点及び原告が飛び出した過失に基因する。

(三) 本件加害車両には構造上の欠陥又は機能の障害がなかつた。(この点においては争いがない。)

2  過失相殺

仮に被告に責任があつたとしても、原告側に右1(二)の重大な過失があるから、大幅な過失相殺がなされるべきである。

第四争点についての判断

一  免責の主張について

原告法定代理人中田かち子の供述(第一ないし第三回)及び原告の負傷が右足背部挫創及び右上腕挫傷であることに照らすと、原告はかち子より先に路上に進出し、危険を感じたかち子が原告に対し「美穂、こつち来んば」と呼び掛かけたところ、原告が立ち止つて、左向きに振り向くと同時に左方から進行して来た本件加害車両が原告に衝突したと認められ、嘉村が徐行し且つ前方を注視していれば本件交通事故は防止できたというべきであるから、その余の点について判断するまでもなく、被告の免責の主張は理由がない。

二  損害について

1  治療費

(一) 医大病院分 金四七万四九〇五円(甲第二七号証の一)

(二) 九大病院分 金二二五〇円(争いがない)

(三) 唐津赤十字病院分 金六四四〇円(甲第一四号証)

2  入院付添費(武岡病院三日、医大病院二一日) 金九万六〇〇〇円

二四日分 一日当り四〇〇〇円

3  通院付添費 金一六万二〇〇〇円

八一日分 一日当り二〇〇〇円

4  入院雑費 金二万四〇〇〇円

二四日分 一日当り一〇〇〇円

5  通院交通費

(一) 武岡病院分 金四万七五六〇円

片道四一〇円(かち子の第一回供述)五八日分

(二) 医大病院分 金三万九六〇〇円

片道九九〇円(甲第一五号証の一、二)二〇日分

(三) 九大病院分 金七七四〇円(甲第一六及び一七号証の各一、二)

6  医師等への謝礼

(一) 武岡病院分 金六〇〇〇円(争いがない)

(二) 医大病院分 金五〇〇〇円(争いがない)

7  診断書作成費 金三二八五円(甲第三三号証)

8  慰謝料

(一) 傷害分 金一〇〇万円

(二) 後遺障害分

甲第三一及び三二号証、証人幸田弘の証言及び検証の結果によれば、原告は医大病院において、右足背部の肥厚性瘢痕を切除し、自己の臀部の皮膚を移植する手術を受けたが、なお第二、三、四趾が上方に軽く引つ張られている状態であるものの、関節には異常がなく、機能的には健康な子供と同じ状態であること、右足背部中央に赤褐色で、約八×四(最大)センチメートル幅の瘢痕が残存し、美容上の見地からは将来手術の必要が生じる可能性があること、臀部の皮膚採取跡にうすいピンク色の瘢痕が見られ、入浴時には赤く浮きあがつて見えることが認められ、原告が七歳の女児であることを考慮すると、右後遺障害についての慰謝料は金一五〇万円と認めるのが相当である。

9  自宅での付添費について

原告は毎日午前九時と午後三時に薬を塗布するための付添費用を請求するが、右事情は傷害慰謝料算定に当り斟酌すれば足りると解する。

三  過失相殺について

乙第一号証によれば本件交通事故の現場であるふじせストア前には普通貨物自動車(ルートバン)が駐車していて道路左方からの見通しが困難であつたこと、同所付近は市街地であつて交通ひんぱんであつたことが認められるから、当時三歳未満の幼児であつた原告の監護責任者であるかち子としては原告の手を引くなどして交通事故を防止すべき注意義務があるのにこれを怠つたため、原告が左方道路から加害車両が進行してきているのに道路中央に進出した結果本件交通事故が発生したというべきであるから、右原告側の過失を考慮すると原告の損害から二割を減額するのが相当である。

四  結論

二1ないし8の合計額金三三七万四七八〇円の八割は争いのない自賠責保険による填補金額を下回るから、原告の本訴請求は理由がない。(自賠責保険金により填補された治療等を含む総損害額は明らかでないが、結論に影響はない。)

(裁判官 生田瑞穂)

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